火星と天体の衝突
火星と天体の衝突が、宇宙に破片をばらまき、巨大衛星を生んだという
(c) Labex UnivEathS

人類が到達すべき地として注目を集める「火星」。そこにはかつて地球の月にあたるような巨大な衛星があったが、地表に落下して消滅した、という説がある。とほうもない考えのようだが可能性としては十分に有り得ると、東京工業大学(東工大)などが検証した。

検証を行ったのは東工大をはじめ神戸大学、ベルギー王立天文台、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学、レンヌ第1大学による国際共同研究チーム。コンピューターによるシミュレーション(模擬実験)を試み、7月4日発行の英国科学誌「Nature Geoscience(ネイチャージオサイエンス)電子版」に結果を載せた。概要は次の通りだ。


火星の北半球には、太陽系最大のクレーター「ボレアレス平原」がある。この特異な地形を生んだのは、実は悠久の昔に飛来した謎の天体だという。当時はすさまじい衝突によって大量の破片が宇宙に飛び散ったが、やがて多くは寄り集まって、1つの巨大衛星になった。

ひとたびあらわれた巨大衛星はさらに、重力によって周囲をかき混ぜ、より小さな2つの衛星「フォボス」と「ディモス」が生まれるよううながした。

フォボスとデイモス
フォボスとディモス、より小さな2つの衛星だけが生き残った

やがて巨大衛星は火星の重力に引かれ、落下して消失。今は小さなフォボスとディモスだけが天に姿をとどめている、という訳だ。

火星の衛星生成シミュレーション
フォボスとディモスができた仕組み

長いあいだフォボスとディモスは宇宙の遠くからやってきて、ひょいと火星の重力につかまった「いそうろう」と考えられていた。だがもし今回のシミュレーションが正しいのであれば、実はいわば火星の「子ども」だった、ということになる。

捕獲説と衝突説の比較
火星の衛星については捕獲説と衝突説がある

はっきり事実を確かめる有効な方法は、直接フォボスとディモスまで行ってサンプル(標本)を持ち帰って調べることだ。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)/宇宙科学研究所(ISAS)は、2020年代にも火星の衛星に探査機を打ち上げてサンプルを採取する「火星サンプルリターン計画:MMX」を検討しており、いずれ答えが明らかになるかもしれない。