カスペルスキーのロゴ

Windows PCには、追加のアンチウイルス(ウイルス対策製品)は不要で、むしろ邪魔になる。とある技術者のそんな主張に対し、セキュリティ企業のKaspersky Lab(カスペルスキー)が意見を発表した。

先日Webブラウザー「Firefox」の開発にたずさわっていたRobert O’Callahan(ロバート・オキャラハン)氏が、PCにはWindowsのセキュリティ機能で保護は十分で、ほかのアンチウイルスは無効にすべき、という見解を明らかにした。そうしたアンチウイルスの影響でかえってブラウザーなどが適切なセキュリティ機能を導入しづらくなっていると非を鳴らしている。

日本でもアンチウイルスの影響に迷惑を感じている多くの人が賛成し、話題として広まった。

さて、アンチウイルスの開発を手掛けるセキュリティ企業は邪魔もの扱いを受けてはおさまらないのか、カスペルスキーのAlexey Malanov(アレクセイ・マラノフ)氏が反論の記事を執筆した。日本語訳もある。

主張の一部を紹介すると、確かに、普段からWindowsや各種アプリを最新に保ち、信頼できないWebサイトは閲覧せず、メールの疑わしい添付ファイルを開かない、怪しいリンクはクリックしない「意識の高い」人は、今やマルウエア(悪意あるソフトウエア)などの感染リスクは低いという。

しかしネットを利用している人の多くはそうではない。私生活では母親が紹介してきたリンクをクリックしたい、友人が教えてくれたWebサイトを見たい、会社では就職希望者がメールで送った履歴書のファイルを開きたい。そういう人にとってアンチウイルスは「シートベルトやエアバッグと同じくらい重要」だという。

またアンチウイルスの性能は均質ではないとし、第三者評価機関「AV-TEST」による試験結果などを上げて、Windowsのセキュリティ機能の劣っている点を指摘している。

AV-TESTによる比較結果

アンチウイルスがブラウザーに影響を与えている点についても、マルウエアの侵入を防ぐだけでなくフィッシング詐欺や悪意あるスクリプト、不適切なコンテンツ、蔓延する広告、オンライントラッキングを防ぐため必要だという。

背景にはアンチウイルスが旧来の範疇を超えたさまざまな機能を備えるようになったことがあるとしている。さらにブラウザー自体はそうしたマルウエア以外の脅威への対策が不十分だとも指摘する。

一方カスペルスキーは、アンチウイルスそのものに脆弱性(ぜいじゃくせい)などがあるのは認め、Windowsなどの作業効率を下げている点も同意し、それぞれに対策を立てていると釈明した。ブラウザーとの連携に努力している姿勢も示した。

どことなく数年前の「アンチウイルスは死んだ」という騒ぎを思い出させる議論ではある。当時カスペルスキーは皮肉まじりに、世間のおおげさな論調をたしなめた。しかし今回は逆にアンチウイルスへの手厳しい批判にずいぶん神妙な態度をとっているようでもある。