ボッシュの日本向けユニット「Active Line Plus」

欧米で販売されている電動アシスト自転車。日本とは異なるコンセプトとデザインを持つそれらを欲しいと思った人は多いでしょう。残念ながらその多くは日本の道路交通法に対応しておらず、公道で乗ることはできませんでした。

でも、この状況はボッシュによって変わるかもしれません。


ボッシュが発表した電動アシストユニット「Active Line Plus」は日本仕様。海外の自転車メーカーはこのユニットを取り付けることで、日本でも販売できる電動アシスト自転車を製造できます。これまで、日本の法律に準拠したユニットを開発する技術や費用がなく、日本での販売を諦めていたメーカーが、日本市場に参入する可能性がでてきました。

ボッシュの日本向けユニット「Active Line Plus」
ボッシュが発表した日本仕様の電動アシストユニット「Active Line Plus」

ここでは、この「Active Line Plus」の概要を11月2日に行われた発表会から紹介します。また、ボッシュが日本参入を決めた理由などを、ボッシュの電動アシスト自転車用ユニットのアジア太平洋地域統括を務めるフアド・ベニーニ氏へのインタビューによってお伝えします。ボッシュの新商品は、従来の電動アシスト自転車の概念を変える「新しい体験を得られる電動の乗り物」、と捉えた方が良いかもしれません。

■日本市場向けに選ばれたのは?

ボッシュは都市部の走行に適した「Active Line」から、山岳地帯での走行にも対応した「Performance Line CX」まで、5ラインの電動アシストユニットを提供しています。今回、日本市場向けに選ばれたのは「Active Line Plus」。同社ラインアップにはハイパフォーマンス過ぎて日本市場に合わないものも含まれていますが、Active Line Plusは日本のニーズにもっとも適した製品として選ばれました。

ボッシュの日本向けユニット「Active Line Plus」

Active Line Plusは、同社による最新世代ユニット。開発開始時にはすでに日本参入が決まっており、日本の交通事情にあったソフトウェアの開発や、走行テストの実施が行われたそうです。

■その特徴と、販売ターゲットは?

Active Line Plusの最大の特徴は「走行時の気持ちよさ」。発表会の登壇者や、Active Line Plusの提供を受ける自転車メーカー(ビアンキ、コラテック、ターン、トレック)の担当者の方々が「乗ればわかる」「乗ると楽しい」と異口同音に語るほどの楽しさにあるようです。

ボッシュの日本向けユニット「Active Line Plus」
「乗ってみないとわからない」という方も

電動アシスト自転車はこれまでは「坂道をのぼるのを楽にしてくれる」「重い荷物を載せても運べる」など、実用的な理由で買う人がほとんどでした。でも、Active Line Plus搭載車は「乗ること自体が楽しい」乗り物。他のどんな乗り物とも違う、新しい楽しさをサイクリストに提供してくれるもののようです。

鉄道の世界でも、単なる移動手段を超えて、乗ることそのものが目的となるような観光列車が増加しています。Active Line Plusも、そのような乗り物を目指しているのかもしれません。

TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)
参考画像:6月17日に運行開始した“乗ること自体が楽しい寝台列車”
「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」

■フアド・ベニーニ氏インタビュー

さて、ボッシュが日本市場参入を決めた理由はどこにあるのでしょうか?フアド・ベニーニ氏に尋ねました。

ボッシュの電動アシスト自転車用ユニットのアジア太平洋地域統括を務めるフアド・ベニーニ氏
電動アシスト自転車用ユニットのアジア太平洋地域統括を務めるフアド・ベニーニ氏

◆日本市場参入の理由とは?
欧米の電動アシスト自転車メーカーの多くが、日本市場参入を検討し、諦めています。日本の法律に対応する技術がないから、または対応してもそれに見合う利益が見込めないから、というのがその理由。そんな中、ボッシュはなぜ日本市場に参入したのでしょうか?

フアド・ベニーニ氏:「理由はいくつかあります。1つ目はその市場規模。日本の電動アシスト自転車市場は、欧州に次いで世界で2番目に大きいのです。

たしかにこの20年間、日本で売れてきたのはいわゆる“ママチャリ”ばかりでした。でも市場調査をしたところ、スポーツタイプの電動アシスト自転車を若い世代が望んでいることがわかったのです。ニーズがある。だから参入するのです。

フアド・ベニーニ氏
ニーズがあるから、参入する

2つ目は、パートナーからの要求です。ボッシュは様々な自転車メーカーに電動アシストユニットを提供していますが、そのパートナーが日本市場向けのユニットを望んだ。特にトレックは早い段階から興味を持ってくれていました。

トレックの電動アシストクロスバイク「Verve+(ヴァーヴ・プラス)」
参考画像:トレックの電動アシストクロスバイク「Verve+(ヴァーヴ・プラス)」
2018年1月発売予定

これらいくつもの情報から、総合的に見て、日本市場にはチャンスがあると判断しました」

◆日本の自転車メーカーとの競合は?
日本ではヤマハやパナソニックなどがスポーツタイプの自転車で先行しています。ボッシュは、これら日本メーカーと競合していくのでしょうか?

フアド・ベニーニ氏:「競合するわけではありません。ボッシュのパートナーは、日本メーカーとは異なるターゲットを持っています。ボッシュとパートナーはそのターゲットに向けて、日本にはない電動アシスト自転車を提供していきます。

また、日本の電動アシスト自転車20年の歴史には、あまり大きなイノベーションはありませんでした。ボッシュなら、大きなイノベーションをもたらせます」

ボッシュは、自転車向けのABSシステムなども開発しています。これは急ブレーキ時のジャックナイフを防ぐシステム。また、滑りやすい地面での制動距離も短縮できるのだとか。このようなイノベーションが、今後ボッシュから日本に導入されることになるかもしれません。

ボッシュによる自転車向けABSシステム
参考画像:ボッシュによる自転車向けABSシステム

◆低価格な自転車への搭載は?
Active Line Plusが搭載される自転車は、現時点ではビアンキやトレック、コラテック、ターンといった大手メーカーが中心。発売されれば、これらのメーカーのファンの人たちの、何パーセントかが電動アシストに移行するでしょう。

でも、ボッシュのシステムを日本でもっと売りたいなら、もう少し安い自転車にも搭載すべきでは?例えば10万円前後でボッシュのユニットを搭載した自転車を買うことはできないものでしょうか?この点について、ベニーニ氏に尋ねてみました。

フアド・ベニーニ氏:「日本で一番売れるスポーツ自転車の価格帯は8万円くらいです。でも、ボリュームゾーンがボッシュのターゲットゾーンというわけではありません。ボッシュのターゲットゾーンは、現時点では20~30万円の価格帯となります。

ボッシュの電動アシストユニットは、最高の自転車と組み合わさって初めてその最高の体験を提供できます。自転車の他のパーツが、ボッシュの電動アシストユニットに見合っている必要があるのです。“ボッシュが安いから買った。でも乗り心地も安かった。”これでは、意味がありません」

◆ハブモーターは?
海外の自転車メーカーの多くは、日本市場で販売できるハブモーターを求めています。ハブモーターであれば、メーカーは自転車本体をほとんどいじらず、ただ前輪または後輪に取り付けるだけで電動アシストを完成できるためです。ハブモーターの多くはバッテリーやスマートフォン連携機能も搭載しているため、メーカーはバッテリー装着位置に悩んだり、操作パネルを開発・取り付ける必要がありません。


世界中で多くの自転車メーカーが望んでいるハブモーター。ボッシュには、開発の予定はないのでしょうか?ベニーニ氏はこの質問に対し、サイクリストから見れば、センターモーターがずっと優れていると語りました。

フアド・ベニーニ氏:「ボッシュが電動アシストユニットの開発をスタートさせたとき、ハブモーターも検討しました。ハブモーターは自転車を作る側から見れば、完璧なものです。開発が簡単で製造も容易。価格も安くできます。

でも、サイクリストにとっては、あまり良いものではありません。逆に、センターモーターにはいくつもメリットがあります。

モーターがペダルを踏んでいる場所に近いので、そのパワーをダイレクトに感じられます。重心が低く、中心に近い場所にあるので、走りやすく、サイクリングのダイナミクスを感じられます。

フアド・ベニーニ氏
モーターがペダルを踏んでいる場所に近いと、
パワーをダイレクトに感じられる

変速機が使えるのも大きなメリットです。ハブモーターでは変速機は使えません。例えばハブモーターで長い坂をのぼっていると、モーターの温度が上がってしまうことがあります。でもセンターモーターでは変速機が使えるので、ギアを落として負荷を減らせるのです」

■電動の新しい乗り物

シリコンバレーでは、ひところほどではないにせよ、いまも自転車を開発するスタートアップが誕生し続けています。そこでは以前はスマートフォンのデザインをしていた人たちが自転車のデザインをし、プリンターコントローラーのソフトウェアを開発していた人たちが、電動アシストユニットのソフトウェアを開発しています。
シリコンバレーの中心地Palo Altoで開発された Faraday Bicyclesの「FARADAY PORTEUR」
参考画像:シリコンバレーの中心地Palo Altoで開発された
Faraday Bicyclesの「FARADAY PORTEUR」

彼らの多くは、スマートフォンやルーターと同じように、電動アシスト自転車を日本で販売したいと考えていますが、日本の道路交通法に阻まれて実現できずにいました。

ボッシュの電動アシストユニットは、彼らを手助けするものになるのか?と思ったのですが、どうやら違うよう。実際には最高のサイクリング体験を提供している自転車メーカーと手を組んで、新しい体験を提供するもののようです。

電動アシスト自転車は、「格好悪いけど楽なもの」から、「電動アシストに見えないルックスのもの」に進化し、さらにこれまでにない体験を得られる乗り物へと進化しつつあるのかもしれません。

ボッシュの日本向けユニット「Active Line Plus」
次は、自動運転?