3D プリンタ関連事業は、現在非常にスピード感を持って成長を続けている分野の1つだ。2013年12月の矢野経済研究所の発表によると、国内 3D プリンタ市場規模は2013年度で150億円が見込まれており、2016年には2万台、240億円まで大幅に成長すると予測されている。
 
この波に乗ろうと、デルや HP などの大手 IT 企業が 3D プリンティング市場への参入意向を示す中、このほどキヤノンも本格展開へと乗り出した。

キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、4月10日より 3D ソリューション事業の展開を開始。米国 3D SYSTEMS 製 3D プリンタのラインアップを強化するとともに、キヤノン IT ソリューションズが手掛ける 3D CAD(3次元設計)ソフト、MR(Mixed Reality:複合現実感)システムを組み合わせた複合サービスを提供する。

キヤノンMJ の 3D ビジネス戦略とはどのようなものか、同社の 3D プリンタショールームを訪れてお話を伺った。

・ものづくり現場の課題解決へ

近年製造業において、3D プリンタに注目が集まっている。3D プリンタは、製品開発プロセスにおいて設計した 3D データをそのまま立体造形するため、短時間かつ低コストに試作品や最終製品を作ることを可能にする。製品のライフサイクルの短縮化が進み、製品をタイムリーに市場に投入することが求められる中、製造の効率化やコスト削減を実現する課題解決ツールとして期待されているそうだ。

キヤノン MJ が 3D プリンティング市場へ本格参入--そのビジネス戦略とは
3D プリンタが製造業の現場に革命を起こす?

キヤノンMJ のこれまでのビジネス領域は、オフィスの中でも総務・IT 部門に限られていたが、3D ソリューション事業ではこの「ものづくり現場」へとビジネス領域の拡大を目指すという。

・企業の様々なニーズに応える 3D プリンタのバリエーション


3D ソリューション事業の展開にあたり、同社は大きく2つの強みを掲げる。

1つは、3D プリンタの圧倒的なラインアップ数だ。今回同社は、3D プリンタ市場をけん引する米国 3D SYSTEMS 社とのパートナシップを強化することで、製品のラインアップをプロフェッショナルおよびパーソナル分野にまで拡充。昨年より産業機器部門で販売していたプロダクション 3D プリンタと合わせ、取扱製品は10種類以上にもなった。

3D ソリューション事業で取り扱う 3D プリンタのラインアップ(このほか、産業機器部門でプロダクション 3D プリンタも扱っている)
3D ソリューション事業で取り扱う 3D プリンタのラインアップ
(このほか、産業機器部門でプロダクション 3D プリンタも扱っている)

また、プロフェッショナルモデルの一部を同社のショールームにも展示し、実機デモの機会を提供する。

「ProJet 3500 HDMax」
「ProJet 3500 HDMax」
出力素材は UV 硬化プラスチック
ワックスのサポート材も出力可能で、複雑な構造のスパナなども
1度の出力で造形できる

「ProJet 660Pro」
「ProJet 660Pro」

石膏素材でフルカラー出力が可能
石膏素材でフルカラー出力が可能

これらの出力機器に加え、3D 関連ソフトや MR システム「MREAL(エムリアル)」を取り揃えることで、3D コンテンツを活用した設計・開発・生産プロセスをインプットからアウトプットまで一貫して構築できる 3D ソリューションが提供可能としている。

なお、MREAL は同社独自のイメージング技術。専用の装置を通して世界を見ることで、現実世界と仮想 CG がリアルタイムで合成される。設計時に同システムを活用することにより、実寸大の3次元 CG を用いた製品デザインの評価ができるほか、3D プリンタの出力パーツを組み合わせることで「触感」「操作性」の確認も可能になるそうだ。

「MREAL」専用のヘッドマウントディスプレイ、右はオペラグラスタイプ
「MREAL」専用のヘッドマウントディスプレイ、右はオペラグラスタイプ

装置を通して見ると、左のハンドルパーツの部分にバイクが出現する
装置を通して見ると、左のハンドルパーツの部分にバイクが出現する

・販売後の手厚い保守対応

もうひとつの強みは、大手企業ならではの保守対応だ。機器販売にあたっては全国に40名の人員を配置し、3D SYSTEMS 社の保守資格を持つ CE(カスタマーエンジニア)も年内までに各県へ拡大していく予定とのこと。装置販売やソリューション提案だけでなく、納入後の技術サポートと保守サービスを手掛けることで、3D プリンタマーケットの裾野拡大を目指す。

ターゲットは製造、建築・建設、教育、医療をはじめ、既に 3D プリンティングサービスを展開する業者まで地域・顧客規模を問わないという。企業のニーズに合わせてサービスをカスタマイズできるため、装置やシステムによって価格も変動するそうだ。

販売目標は、2016年で100億円以上。2014年の経営方針説明会で「自社での 3D プリンタ製造」にも言及したキヤノングループは、国内 3D プリンタ市場をけん引する存在となるだろうか。今後の展開に注目したい。