スリングショットで“鳥”を放って、敵の“豚”を倒すモバイルゲーム「アングリーバード」を大ヒットさせ、一躍世界的な企業に成長したフィンランドのロビオ・エンターテインメント。2013年には世界7か国目の拠点として日本法人を設立、積極的な市場展開を進めている。

フィンランドや米国などでは、ゲームのみならず T シャツなどのグッズでも親しまれているアングリーバードだが、日本ではまだ馴染みが薄いキャラクターといえそうだ。同社はどのような戦略のもと、日本での市場拡大を図っているのだろうか?

今年9月に日本法人代表に就任した及川克己氏に、これまでの事業展開や今後の成長戦略などをうかがった。
 
目指すはアンパンマンのような存在--日本法人代表が語る「アングリーバード」の成長戦略
日本法人代表の及川克己氏

■少女漫画にねんど教室、日本で続ける独自の進化

エンターテインメント企業として、ゲームやアニメ、出版など、アングリーバードの人気を生かした事業を幅広く展開するロビオ。アジア圏でもその人気は高く、中国にはアングリーバードのテーマパークまで造られているほどだ。ゲーム人口が多く“有数のエンターテインメント大国”である日本も同社が重視する市場の1つだが、一筋縄ではいかない難しさも感じているという。
 
敵の“豚”を倒すゲームで一躍人気者に
敵の“豚”を倒すゲームで一躍人気者に
 
教育や出版事業にまで進出している
教育や出版事業にまで進出している

市場競争が激しい日本では、新しいゲームをローンチしてもすぐに“流れていってしまう”上に、独自のアニメやキャラクター文化が存在する。アンパンマンやドラえもんといった王道のキャラクターも多く、アングリーバードのような海外発のコンテンツには高い参入障壁があるそうだ。そこで同社が積極的に進めているのが、日本国内の企業やクリエイターとのコラボレーションだ。

同社はこれまでに、ガンホー・オンライン・エンターテイメントのモバイルゲーム「パズル&ドラゴンズ」や講談社の月刊少女漫画誌「なかよし」などとの企画を展開。今年10月に開始した「なかよし」の連載「Stella〜ナナと魔法の英単語〜」では、アングリーバードのキャラクターの1つ「ステラ」を、少女漫画らしい色彩や顔つきに変えて登場させている。主人公の少女・ナナがステラと交流しながら英語を学ぶストーリーは、小中学生の読者からも好評だという。
 
少女漫画風に変身した「ステラ」
少女漫画風に変身した「ステラ」

コンテンツ制作だけでなく、ファンとの交流に力を入れているのも日本法人の特徴だ。2013年11月より同社は、AppBank Store 新宿店とコラボレートした「お絵かき教室」や「ねんど教室」など“リアル”でのイベントを展開。フィンランド本社からクリエイターを招いた本格的な内容が評判を呼び、既に固定ファンも生まれているという。及川氏は「イベントを知ったお子さんが親を誘ってくれるケースもある」と説明。リアルとネット双方のタッチポイントを増やすことで、“Fan makes fan.(ファンがファンを呼ぶ)”のような好循環を生み出していきたいと意気込みを見せた。
 
2014年8月に開催された「ねんど教室」の様子
2014年8月に開催された「ねんど教室」の様子

■目指すは“アンパンマンのように身近な存在”

日本国内でのパートナーシップを軸に、アングリーバードの露出を増やしてきたロビオ。海外展開を視野に入れる企業やクリエイターにとっても、グローバル企業であり、サードパーティー用のチャネルも提供しているロビオとの提携は魅力的に映っているようだ。ロビオと共にコンテンツをつくり、ロビオのチャネルを生かして海外に売り込む。そんな日本企業が今後増えていくかもしれない。
 
グローバル展開中の「パズル&ドラゴンズ」とのコラボ企画 開催期間:2014年10月20日〜11月2日
グローバル展開中の「パズル&ドラゴンズ」とのコラボ企画
開催期間:2014年10月20日〜11月2日

今年12月には“5歳の誕生日”を迎えるアングリーバード。登場間もない頃と比べるとブームは落ち着いた感があるが、及川氏は「コンテンツとして活用し切れてはいない」と強調。世界的なブランドに“日本らしさ”を加えることで、アンパンマンやドラえもんのような身近で親しみのあるキャラクターに育てていきたいと語る。

2016年夏には、アングリーバード初の映画公開も予定されている。ハリウッド屈指のプロデューサーたちが参加し、キャラクターの見た目も大胆に変更した映画版に対して、日本国内の関心をどこまで高められるか?その成否は、日本法人のみならず、ロビオ全体の将来を占う試金石となりそうだ。
 
 2016年夏に公開予定の映画版アングリーバード
2016年夏に公開予定の映画版アングリーバード