ぶあつい牛肉と打ちたてのうどん
続いてたずねた11階は本格的な大食堂。一角はフードコートのようになっていて、定食、丼、カレー、ラーメン、うどんと分かれた窓口があり、大量の注文をこなせる。それでも昼時ともなれば、人気コーナーには列ができた。
この日の目玉は「“どんぶり界の王様”ローストビーフ丼」。値段は980円と、ほかのメニューが500円台中心なのに比べ気ばっている。見本を確認すると、なるほど汁気たっぷりの牛肉が幾重にも白飯をおおい、青々としたクレソンや、つややかな温泉卵とあいまって目を引く。ながめているうちに、若い男性などが次々ならんでゆく。
せっかくだからと実際に注文することにする。トレイをとって列に加わると、厨房は鮮やかな手際をしめし、意外にも数分で料理を受け取れた。盛り付けはカフェ風だ。席に持ってゆくあいだも、手元で温泉卵がぷるぷるとゆれて食欲をそそる。
いすに座って、いそいそと箸をつけると、味は期待を上回り、わけてもローストビーフのぶあつさ、歯ごたえに驚く。米もやわらかく炊けているのに粒がたって、肉汁がしみると絶品だった。
ちなみに献立は週替わりで、かくも豪華なローストビーフ丼もいずれは姿を消し、季節に合わせた新たな丼が登場するのだそう。たっぷりしたボリュームがあったにもかかわらず、ついはかなさをおぼえて、ため息がもれた。
ほかのメニューも負けずおとらず、作り手のこだわりを強く感じる内容だった。カレーは独自にスパイスを調合し、舌がぴりぴりするほど辛くしあげてあり、うどんは食堂内で製麺機を使い、打ちたてをゆでている。
その中でもうどんは特筆に値する。520円の「明太クリームうどん」を試食したところ、最前まで心を占めていたローストビーフ丼の興奮が色あせるできばえだった。
「社食のうどん」という先入観から期待値がやや低かったせいもあり、噛み切ろうとしたとたん、まずこしの強さにぼうぜんとした。太めの麺にからむ白いクリームや薄赤い明太子の粒は、目に鮮やかなだけでなく、舌ざわりもよい。口の中でほどけると、あとはもう感想をのべようとしても語彙が「うまい」しかなくなってしまう。食べ終えてから、うまい、うまいと同じ言葉を繰り返しつぶやいていると、さすがに周囲からはやや奇異の目で見られた。
なお支払いは、空になった食器をトレイごと専用の台に載せ、社員証か電子マネーをかざすだけ。食器にしかけがあり、磁気によってどのメニューを頼んだか自動で識別する。おかげで大量の客がこみあわず退出できる。
この11階の大食堂にも、ほかにビュッフェ、ベーカリー、好きな総菜の小皿を好きにとって組み合わせるコーナー、コンビニエンスストアまであり、好みに合ったかたちで食事がとれる。
社食の営業時間は11時~20時。目下はヤフーの社員などと一緒でないと入れないが、将来は17階と同じく開放も検討しているとか。
まもなく石巻から新米が到着
今回の取材では11階、17階とも米に茨城県産のコシヒカリを使っていた。さらにうらやましいことに、在庫がなくなり次第、宮城県は石巻産の新米を入れる予定だという。東日本大地震で被害にあった石巻には現在、ヤフーの拠点があるが、社員が半ばプライベートで周辺の田植えや刈り入れに参加しているそう。そこでとれたての米を、社食で使うのだとか。
宮城とヤフーの縁はそれだけではなく、リニューアル当初には女川産の「銀鮭」を使ったメニューを出したとか。
親子重は値段が1,480円と、ローストビーフ丼を超える設定だったが、なかなかの人気だったらしい。
今後も被災地の食材を生かしたメニューを出すほか、各種のイベントも構想しているそう。11月以降、ヤフー本社を訪れる機会があれば、ぜひ社食のぞき、どんな献立があるか確かめるのも面白いだろう。17階のコワーキングスペースは2017月3月までは無料で体験できるそう。