約1兆の500乗通りのパターン(組み合わせ)から適した解を導く「組み合わせ最適化問題」を、量子コンピュータに匹敵する性能で瞬時に解く新型コンピュータが試作された。

試作したのは日立製作所

このコンピュータは半導体で動作するため、量子力学を応用した計算手法(量子アニーリング)を用いた量子コンピュータに必要な冷却装置がいらず、室温で動作する。また、従来のコンピュータの約1,800倍の電力効率を備えており、電力消費量を低減できる。

新型コンピュータは、自然や生物に備わる「創発」現象を計算で利用するもので、社会問題の規模に応じて大規模化できる実用システムを提供できるようになるそうだ。

「創発」は主に複雑系で用いられる用語。生命のように、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れること。コンピュータ科学の分野では、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズムなど、シミュレーションによって創発現象を人工的に作り出し、計算に応用することが研究されている。今回発表の「創発」コンピュータでは、「イジングモデル」を利用している。

「イジングモデル」は、2つの配位状態をとる格子点から構成され、最隣接の格子点のみの相互作用を考慮する格子模型(モデル)。強磁性体のモデル。

約1兆の500乗通りのパターンから実用に適した解を導く、量子コンピュータに匹敵する新型コンピュータ、日立が試作
イジングモデル

都市部の交通渋滞の解消やグローバルサプライチェーンでの物流コストの最小化、次世代電力送電網による安定したエネルギー供給など、大規模かつ複雑化する社会システムの課題を解決するには、全体最適となる組み合わせを見出すことが重要。最適な組み合わせを見出す問題は、情報処理の分野では「組み合わせ最適化問題」(最適化問題)と呼ばれている。その例として、販売員が複数都市すべてを回る場合の最短経路を求める「巡回セールスマン問題」が有名だ。問題が大きくなると、組み合わせのパターンが膨大になり、現実的な時間で最適な組み合わせを出すことが困難になる。

 現在、最適化問題を解く手法として、量子アニーリングを用いた量子コンピュータが注目されている。この量子コンピュータは、一般的に用いられている情報を0と1のデジタル情報に置き換えるコンピュータと異なり、0と1の値を任意の割合で重ね合わせた状態を利用して、超並列計算を実行している。

ここでは、問題を数学的に処理し、磁性体の振る舞い(物理現象)を数学的に表現するイジングモデルに変換し、問題を解く。しかし、現在提案されている量子コンピュータは、極低温にまで冷却する装置や超伝導素子などが必要な量子アニーリングを使用しているため、大規模化が困難だった。

そこで日立は、半導体回路上でイジングモデルを擬似的に再現、問題を高速処理できる新型コンピュータを開発した。イジングモデルを用いた計算処理では、部分計算するだけで全体最適に近い解である実用解を出せるため、処理速度を高めるとともに、電力消費量を低減できる。

また、半導体を並列化することで超並列計算をできるようにし、処理速度をさらに高めることができる。加えて、新型コンピュータでは汎用の半導体を使用するため、室温で動作できる。