近年、スマートフォンユーザーの増加に伴い、Twitter や Facebook などのソーシャルメディアの普及率が拡大していることは、すでにご存知の方も多いだろう。そのような背景を受け、企業の Web マーケティング活動においても、情報発信手段のひとつとしてソーシャルメディアを活用するケースが急速に増えている。

ソーシャルメディア運営の主なビジネスモデルは広告収入である。Twitter や Facebook の他、YouTube、LINE、Instagram などあらゆるソーシャルメディアは、広告配信システムを日々進化させ、新たな広告商品をリリースしている。そのため、広告代理店が広告主に、ソーシャルメディア広告を提案するケースも多いだろう。しかし、現在出稿されている広告をみると、広告代理店・広告主の双方とも、Web マーケティング戦略における“ソーシャルメディア広告の価値”の理解が十分でないと感じることも少なくない。

一般的に、企業のマーケティング施策はユーザーの購買プロセスに合わせて設計される。そこで今回は、AISAS(アイサス)と呼ばれるマーケティングの購買行動プロセス理論とソーシャルメディアの特徴を踏まえた上で、広告主の全体成果を最大化させるソーシャルメディア広告の活用術を紹介したい。

いずれもソーシャルメディアの特性を活かした効果的なアプローチ方法なので、現在ソーシャルメディア広告導入を検討中の担当者や、すでに取り組んでいる担当者の今後のマーケティング戦略立案の一助としてほしい。

なお、AISAS の次の理論として、昨今 SIPS(シップス)が提唱されているが、SIPS はソーシャルメディアが充分に浸透した時代における、特に SNS に関与の深いユーザーについての行動理論であって、AISAS の後継理論ではない。また広告主は、最終的には Web 上でのコンバージョン(購買、資料請求、参加・体験などの申込み)を目的にしてインターネット広告を出稿しているケースが多く、それは AISAS の行動理論と合致する。以上の理由から、このコラムでは AISAS を主として取り上げる。

AISAS は、消費者がある商品を認知してから購買に至るプロセスを、「Attention(注意)」「Interest(興味)」「Search(検索)」「Action(購買)」「Share(情報共有)」の5つのプロセスで構築した理論である。この AISAS を更に大きく、1. 認知段階、2. 感情段階、3. 行動段階、という3つのステージに分類することができる。これらの3つのステージに対して、それぞれ適切なソーシャルメディア広告施策が存在する。

AISAS に基づいたソーシャルメディア広告の活用術
AISAS

page 1. 認知段階(Attention:注意)

新規顧客となりうるユーザーに商品・サービスを認知させたいとき、「誰に」広告を配信するかという「ターゲティング(人)」と、「どこに」広告を出すかという「面」が重要な鍵を握る。

まず「ターゲティング」だが、ソーシャルメディア特有の高精度なターゲティング方法が存在する。

一般的なディスプレイ広告の場合、オーディエンスデータは、ユーザーの行動や検索履歴から推測したものを蓄積している。それに対し Facebook は、ご存知の通り実名登録が原則で、ユーザー自身が属性を登録する。そのため、信頼性・正確性の高いデータを取得できる。

一例を挙げてみよう。Facebook 上に、複数のアイドルグループのページに「いいね!」をしている「『関東在住』『20代』『独身』『男性』」がいるとする。Facebook 広告では、この細分化された特定のターゲットに対して、「◯月◯日に渋谷でアイドルイベント開催!」といった広告を配信することが可能である。地域・年代・性別・未婚/既婚・学歴・職歴・趣味など、細かいターゲティングができるのだ。

また、Twitter 広告では、例えば「そろそろ医療事務の資格を取りたいなぁ、でもどこがいいか分からないや……」という呟きをしているユーザーに対して、「医療事務」「資格」というキーワードを基にターゲティングすることができる。この場合、検索連動型広告で獲得効率の良いキーワードを中心にターゲティングすることをお勧めする。このように、呟きや投稿など、ユーザーが発信した情報を基に広告を配信できることは、ソーシャルメディア広告の大きなメリットのひとつだ。

次に「面」についてだが、ソーシャルメディアを利用しているユーザー数や、1人あたりのソーシャルメディア上の回遊時間が拡大している事実と深い関連性がある。デジタルネイティブと呼ばれた世代も20代になり、上の世代に比べてソーシャルメディアに対し警戒心の薄い世代がメインユーザーとなる日も近い。デバイスの種類の増加、インターネット接続環境の整備・拡大、それらすべての要素が相まって、利用ユーザー数とユーザーのソーシャルメディア上の回遊時間は今後も伸びていくと考えられる。Web マーケティング上の認知施策の手段は、純広告、ディスプレイ広告、動画広告など様々な種類があるが、自社商品の認知拡大のためには、ソーシャル広告を視野に加える必要性は今後ますます高まるだろう。

また、ソーシャルメディアの特徴として「RT」「シェア」など、ユーザーが他人の呟きや投稿を拡散させることができるが、これは広告に対してもおこなうことが可能だ。他人に見せたいような価値のある情報、または他人が見ることで面白い・共有したいと思われるような情報を提供すれば、同じ広告予算でもリーチできるユーザー数が圧倒的に増える。このような手法も、認知段階では有効だろう。

page 2. 感情段階(Interest:興味)

次に、認知段階にいるユーザーを感情段階へと促進させよう。インターネットを回遊する中で知った情報が、直接自分にとって価値のある商品・サービスだと気付いてもらうようにするプロセスである。ここでは広告以外のソーシャルメディア運用と組み合わせた促進施策を説明していく。

ソーシャルメディアの公式アカウントでは、「フォロワー」や「いいね!ユーザー」など、認知段階以上のユーザーを判別できる。認知施策を実施し、これらのユーザー数を積極的に増やしていこう。「フォロワー」「いいね!ユーザー」を興味プロセスへ育てるには、日々のアカウント運用が重要である。自社の商品・サービスの情報はもちろん、社会情勢や季節ネタ、業界全体に関わる情報など、読み手にとって有益な情報を継続的に発信していくべきだ。

実際にユーザーと双方向に会話をすることで、ユーザー目線での新たな自社の強みを知ったり、検討すべき課題を集めることもできるだろう。オーディエンスデータ解析の際には、Twitter アナリティクス(無料)や Facebook ページのインサイト機能(無料)を利用し、投稿時間やタイトル、ユーザーに響く訴求クリエィティブなどをエンゲージメント率などで計測し、PDCA を回していくことが重要になる。

また、ソーシャルメディア広告の特徴のひとつである、フォロワーに対してのみ広告を配信するターゲティングも効果的だ。キャンペーンやセールの情報、また新商品やニュースを認知段階のユーザーに直接届けることで、興味段階、更には次の行動段階へと育てていくことができる。広告のリンク先 URL に設定するページは LP(ランディングページ)の他に、インタビューや詳細な商品紹介ぺージなど、文章と共に画像・映像を見せて視覚的にも商品理解が深まるものがお勧めだ。

page 3.行動段階(Search:検索、Action:購買、Share:共有)

感情段階で興味を抱くと、次のステージとして、ユーザーは興味を持ったことに対してより情報を集めるために、検索行動を起こす。更に複数の Web ページへ流入し、比較検討を経て購買(コンバージョン)に至る。その後、感想や意見を共有するまでの一連のプロセスが、行動段階だ。

ユーザーにとって価値のある商品・サービスだと気付いた後に、実際に購買や申込みなどの行動を喚起し、更にその後にソーシャルメディアなどでその体験を共有する部分まで含めて施策設計することが重要だ。

検索後、購買に至るまでのタイミングで、検索連動型広告やリマーケティング広告(一度広告主の Web ページに訪れたユーザーや、広告主のサービス・ブランド名称で検索したことのあるユーザーをターゲットにした広告配信)を実施し、モチベーションが顕在化したユーザーをコンバージョンへ結びつける手法が一般的だ。しかし、以前は Yahoo! と Google が有する広告枠を押さえておけば、ある程度のユーザー数にリーチできた状況が、媒体の多様化や情報量の増加により変化してきている。多種多様なメディアを回遊するユーザーにリーチするための打開策として、ソーシャルメディア広告が有効なのである。

なかでも、ソーシャルメディア広告におけるリマーケティング広告の活用を推奨したい。例えば、一度広告主の Web サイトを訪問したことのあるユーザーが Twitter を利用している時に、セールやキャンペーン情報の広告を Twitter のタイムライン上に表示する。同様の施策を、Facebook ではニュースフィード上で実施できる。これにより、広告主の Web サイトへの再流入を促し、購買に繋げることができる。Google AdWords、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)ではカバーしていない面にアプローチすることで、より機会獲得を増やすことが可能だ。

購買後にユーザーが感想や意見を共有する、というのが AISAS の最終段階だ。「RT」「シェア」と同様に、ユーザーは良い商品・サービスの情報を周囲の他人に共有する行動を起こす。ページ内にソーシャル共有ボタンを設置した上で、共有したくなる動機や雰囲気を、ブランドイメージも含めて日々作り上げていくことが大切だ。それらの継続により、自然とインターネット上の口コミが増え、認知の幅が拡がるだろう。

共有された感想・意見は、各媒体の検索機能や、「Yahoo!なう検索(無料)」などで分析できる。分析の結果、マイナスの口コミが多い時は、自社商材の弱点をリサーチしよう。同時に競合分析もおこない、その結果 Web 上のマーケティング戦略のみならず商材の販売戦略自体を見直す必要が出てくる可能性もある。プラスの口コミが増えない時は、効果的にプラスの要素を打ち出す広告戦略を練る必要がある。テキストやバナー広告での訴求を変更したり、Web ページやソーシャルメディアでの印象・キャラクターを修正したりするなどの施策を試そう。

プラスの口コミが多い場合は、更なる認知の拡大と口コミ増加を目指し、ブランドイメージ向上に繋げよう。プラスの口コミ増加は、ソーシャルメディア上での外部リンクの増加も意味する。ユーザーによる自発的な外部リンクが増えることで、価値のある情報を発信していると判断され、検索エンジンからの Web サイトの評価が上がり、自然検索結果の順位に好影響を与える。このように、ソーシャルメディア広告を含むソーシャルメディアのマーケティング施策は、SEO の観点でも有効である。

ここまで、AISAS に基づいたユーザーの各購買プロセスにおいて、有効なソーシャル広告の活用方法を紹介した。どのステージにいるユーザーにとっても、ソーシャル広告施策が有効であることが理解いただけただろうか。

広告主が抱える課題に対する解決策として、現在利用している広告媒体よりもソーシャル広告の方が効果的な場合もあるだろう。また、現在実施している広告媒体に追加してソーシャル広告を実施することで、ユーザーリーチを拡大し、広告効果を更に最大化することも可能だ。

ソーシャルメディア広告の実施を検討中の方は、今後の広告施策立案の際の検討材料としてほしい。また、すでにソーシャルメディア広告をおこなっている担当者は、その利用目的を今一度整理し、「どのステージにいるユーザーをターゲットに、どういった施策をおこなうか」を練り直すと、より効果的に広告を活用できるのではないだろうか。

執筆:株式会社アイレップ 第3エージェンシートレーディングデスクグループ 石松豊
記事提供:アイレップ